「施設に入ってもらう方がいいのでは?」
と思っても、親はすぐに納得してくれるとは限らない。
特に、プライドの高い親の気持ちにどう寄り添うか——
この記事では、私たちがと高齢者施設入所のことで両親と向き合ったときの実体験を書いています。
親の「気持ち」がいちばん難しい
介護の情報を調べていると、「早めの準備が大事」とよく目にします。
でも実際には、「じゃあ、すぐに施設に入ってもらおう」と簡単に進められるわけではありません。
特に、プライドの高い親、頑固な親の場合は、“気持ちの壁”が何より大きなハードルになります。
私たちの場合もそうでした。
母が高齢者施設やデイサービスに対して抱いていたイメージ。
それは、想像以上に根深いものでした。
「折り紙とか、お絵かきとか…私そういうの大っ嫌い!」
施設入居の話をするより前、母にデイサービスを勧めたとき、返ってきたのは苦笑いと拒絶の言葉。
「あんな幼稚園みたいなところで、折り紙とかお絵かきとか…私そういうの大っ嫌い!」
たしかに、パンフレットやネットの写真を見ると、利用者の方がぬり絵や工作をしている場面もよく出てきます。
でも、それがすべてではないことも、今となってはわかります。
ただ当時の母にとっては、「自分の世界を守りたい」気持ちのほうが強かった。
他人に見られながら、介助を受けるなんて、母にとっては恥ずかしいことだったのかもしれません。
気づかないうちに始まっていた、生活の変化
母が料理をしなくなった(できなくなった?)
母が料理をしなくなっていたことに、私たちが気づいたのはだいぶ後のことでした。
冷蔵庫にはいつも決まった数の同じような総菜パック、台所に立つ時間はほとんどない。
母が食べていたのは、近所のスーパーやコンビニで買ってきた弁当やパンばかり。
もともと料理は上手というわけではないけど、普通にこなしていた母。
それがなくなっていることに、ようやく私たちは「これはおかしい」と感じたのです。
父のやせ細った背中が、気づかせてくれた
さらに心配の種は、父のほうにも現れました。
天然なところもあるけど、母のことは常に気遣っていた父。
でも、自分の食事は適当に済ませていたのか、会うたびにどんどんやせていく姿に、私たちは焦りました。
「母の世話をしていた父の方が、先に参ってしまうかもしれない」
そう感じたとき、昼食だけでも栄養バランスの整ったお弁当を取ろう、と姉妹で話し合い、配食サービスを頼むことにしました。
“自分のため”ではなく“相手のため”の言い方が届いた
施設やサービスの話を持ち出すとき、私たちが試行錯誤してたどり着いたのが、
「お父さんが最近やせてきて心配だから、お母さんも一緒に安心して暮らせる場所に行こうよ」
という、「誰かのために」が理由になる話し方でした。
母にとって、「自分が年を取った」「誰かに迷惑をかけている」と言われるのはつらかったと思います。
でも、「お父さんのためなら」と思うと、少しだけ納得してくれる。
父には「もうお母さんのことを一人で全部背負うのは無理しないで」と伝え、
母には「お父さんの健康が心配だから、少しでも楽になってもらおう」と。
“あなたが弱ってるから施設”ではなく、“相手のため”の言い回しが効果的だった
そのバランスが、当時の私たちにできる最大限の“配慮”でした。
サ高住への入居を前向きに考え始めた頃…
母は「お父さんと一緒に行くなら」と少し前向きに
そうして少しずつ母の気持ちが動き始めたのが、ちょうど父の体力の衰えも顕著になってきた時期。
話し合いを重ね、父と一緒にサービス付き高齢者住宅(サ高住)への入居を検討し始めました。
実家も老朽化が進み、ネズミの被害もあって「もうここで暮らすのは限界かもね」と話がまとまりつつありました。
母も、「お父さんが一緒なら」という前提で、ようやく見学に行ってみることに同意してくれました。
でも、人生は予定通りにはいかない。
そんな矢先のことでした。
父が自転車ごと用水路に転落し、怪我で緊急入院。
母と一緒にサ高住へ、という前提が、一瞬で崩れたのです。
この話の続きは、別の記事で詳しく書いていますが、
母ひとりでの施設入所という新たな課題に直面することになりました。
親の気持ちと向き合うには“時間と視点の変換”が必要
「施設なんてまだ早い!」「そんなところ行きたくない!」
そう言っていた母の気持ちを、少しずつ変えるまでには、時間がかかりました。
でも、その“時間をかけた過程”こそが、今思えばとても大切だったと思います。
焦って決めていたら、親の信頼も失っていたかもしれない。
親のプライドを大切にしながら、“誰かのため”という視点で話すことが、気持ちの扉を開くヒントになりました。
- 親を“説得する”のではなく、“理解し合う”プロセスが大事
- 「すぐに決めなきゃ」と焦ると、気持ちがすれ違う
- 一歩ずつ、相手の立場に立って言葉を選ぶことの大切さ
今、同じように悩んでいる方のヒントになれば嬉しいです。




